「夏季限定トロピカルパフェ事件」(著者:米澤穂信)

 読了。う〜ん、今巻は期待に比べるとイマイチかな。
 あらすじは……前作「いちごタルト事件」から一年経ち、すっかり「小市民」が板についた小鳩と小佐内。しかしその年の夏は違っていた。互恵関係だけで結ばれているはずの小佐内が、あろうことか小鳩を外出に誘ったのだ。目的は<小佐内スイーツコレクション・夏>。甘味に囲まれた苦い夏休みが今始まる……といったもの。
 残念なことにこの作品、ミステリー部分は影を潜め(かなり御粗末・おざなりになってます)、キャラクターモノの道を順調に歩んでしまっています。しかしキャラクターモノとは言っても、別の意味でのキャラクターモノ。前作で培ったキャラ性を捨て去る方向へと走っているのです。これは個人的には好感度高し。シリーズとしての方向性が見えたような気がします(シリーズとして続くのかどうかわかりませんが)。
 にもかかわらずイマイチだった理由は、ミステリー部分です。これは実際に理論を組み立てて示すのは難しいかもしれませんが、根拠を挙げずに推測するには容易い内容でした。これは「キャラ性を捨て去る方向」へ向かうには、主人公二人の特異性を薄めること(ある面では強まってるけれど)に繋がって良かったと思うのですが、読者視点でミステリーを楽しもうとするには前述のとおり御粗末だったと思うのです。叙述トリックなり何なりを使って読者を騙すように心掛けるべきだったと思う。でもそれをしていない(ワザとだと思えもするのですが)。それはミステリーを期待していた読者としては物足りないのです。構成も前作と変わらなかったしね。
 しかし繰り返しますが、それはキャラ性を次の段階に移させる手段にはなっています。ここが良くもあり悪くもある。ですからこの2巻の評価は、3巻次第で変わってくるという気がします。
 私個人としては、3巻で主人公達が過去を含めて自分たちこそが「小市民」であることに気がつき、そして4巻でさらにまた「狐」と「狼」である事を目指すようになるのではと期待します。つまり春夏秋冬、高校生活を通じて小鳩や小佐内、健吾らが思春期を越えて成長していく、それを書き綴る物語にシフトしている段階がこの2巻「夏季限定トロピカルパフェ事件」なんじゃないかな、と。そうであるならば今巻のミステリーは添え物に過ぎないので、今巻の不満な点も許せるのです。
 ただまあ、そうであったとしても、出来ればミステリーと青春と両立させて欲しかったなぁ……とも思うのですが。
 とにかく、次に期待……って、2巻目が出るまで1年半が経過してるのか。これは待てないなぁ。
 あ、もし続きが出ないのであれば、この作品の評価は中の下といったところです。この作者はもっといい作品が書けると思う。