没ネタ

 ひぐらしのなく頃に、の没SS
 かのくらの中編参加用のSSのワープロ打ちを始めようとしたら、フォルダ内に発見しました。
 まだ完全に没ネタではなくて、ひょっとしたらこの続きを書き始めるかもしれませんが、その可能性は低いので、お茶濁しに日記に掲載。
 いちおう、鬼隠し編で、圭一が魅音&レナを殺したあとに家から飛び出したあと、電話ボックスから大石に電話を賭けるまでの出来事を書いた考察SSの途中までです。
 文章的におかしいところもあるかと思いますが、そこんところは多めに見て下さい。そんでは、はじまりはじまり。




 

 胸が痛む、足が痛む。
 欠乏した酸素に喘ぎ、こめかみがズキズキと痛む。
 走る途中で打ち付けた肩が、転んで打ったひじが、葉に草に擦り切れた腿が痛む。 
 走りながらも噛み締めた奥歯がギリリと痛む。
 額から流れた汗が瞳に落ちて、ぴりりと痛む。
 肌が、爪が、髪の毛さえが、空気に触れてさらされて、痛みを訴える。
 だが何よりも痛いのは……周囲から降り注ぐ、ひぐらしの声。
 カナカナ、カナカナ。
 張り裂けそうなほど悲しくて、痛い。

 ――どうして、どうしてこんなことに……

 過去の音が鼓膜を震わす。
 毎朝聞いたレナの笑い声、放課後に聞いた魅音の笑い声。
 祭りで聞いた、仲間の声。

 そして注射器を手にし、俺を羽交い絞めにした二人の笑い声……

 いったいどうしてだ、なんで世界が変わっちまったんだ。

 木々の間を抜けて走る。
 走りながら、振り返る。
 今まで生きてきた、この村の一ヶ月間の暮らしを顧みる。
 好きだった。
 町になかった、この村だけの生活が好きだった。
 学校が好きだった。部活で遊ぶのも、笑うのも、笑われるのでさえ好きだった。あの二人が、好きだった。
 なんでもない日常が、好きだった。
 視界がぼやけて歪む。拭った手は泥と血に汚れていた。


 ――いったい俺が何をした。

 問う。
 走るのは俺一人。
 ひぐらしの声が降り注ぐ中で、俺一人、
 だから、答えるのも俺一人。
 その俺が、俺の中の俺が、冷静に、突き放すように、答えを告げた。

 ……魅音を殺した。

 そんな答えは求めてなかった。俺が知りたいのは違う。俺が聞きたい答えはそんなことじゃない!
 だがそれは事実で、抗いようなく俺の心に深く刺さる。
 反論も許されず、自分にしかわからない、もっとも痛いところを容赦なくえぐる。
 俺はその痛みに耐え切れず、その痛みから逃れようと、自分に責が無い質問を繰り返す。

 ――どうして追われなきゃいけないんだ。

 ……レナを殺したから。

 ――きっかけはなんなんだ。

 ……富竹さんが死んだ。

 ――なぜ命を狙われなきゃいけないんだ!

 ……祟りに触れた。

 ――俺は何もしていないっ! 

 ……俺は余所者だ。村の人間じゃない。

 ――ちがうっ ちがうっ! 俺は雛見沢の人間だ!

 ……余所者だ。仲間じゃない。魅音もレナも、仲間じゃない。

 ――ちがうっ ちがうっ! ちがうちがうちがうちがうっ!!!!
 

 不意に足がもつれた。バランスを失った視界の片隅で、つま先が木の根にかかっているのが見えた。
 つんのめる。宙を掻きながら、必死で体を傾ける。
 傾けたその先に、樹の幹があった。
 肩から背中に鈍い痛みが走った。
 しかし打ち付けた衝撃は弱く、俺は走っていた自分の足が思っていたより力が無かったことを知った。
 揺れていた景色が止まる。
 もうこれで何度目の転倒だろうか。
 足が止まり、切れかけていた息が止まり、一瞬後に咳き込んだ。
 必死に呼吸を整える。荒い息を整え、崩れそうになる膝を支える。
 そして再び駆け出そうとする。
 だが惰性だけで走っていた体は疲れ果て、筋肉は命じるままに動いてくれなかった。

 もう……走れない。

 情けないが、限界だった。
 何よりも呼吸が続かず、体を走らせることができなかった。
 後ろを振り向く。
 追ってきているはずの黒服たちの姿は見えない。
 耳を澄ましても、物音も気配も感じない。どうやら撒いたようだった。
 傍の大木によろめきながら寄りかかり、体を預け、そのままずり下がって地面に座り込む。
 油断はできない。いつ奴らが追いついてくるかわからない。
 だが、とにかく今は体を休めないことには動けそうにも無かった。
 視線を上げる。夕日を遮るほど鬱蒼と茂った木々。
 これほどの深い森だ。いったん引き離したなら俺に追いつくこと、いや、見つけることなど困難だろう。とりあえず、少しの時間はできたわけだ。
 大きく息を吐き深呼吸する。ゼイゼイという呼吸がうるさく、思わず喉に手をやる。喉がカラカラに乾いていた。
 そういえば……
 もう一度耳を澄ましてみる。
 足音ではない。ひぐらしや野鳥の声に混じって、清涼感漂う音が聞こえる。
 水だ。
 間違いない、近くから、水音が聞こえる。
 そう意識すると喉の渇きは耐え難く、我慢できなくなっていた。
 俺は疲れきった体を無理やりに立たせると、音が聞こえる方向へと、ふらつきながらも斜面を降りていった。



「ぷはぁっ!」
 思わず声が出た。
 口をつけて水を飲み、頭から浴びる。
 生き返る。まさにそんな気分だった。
 見つけたのは斜面の一角からこんこんと湧き出る清水だった。その下にはくぼ地があり、おあつらえ向きに、ちょっとした池のように水が溜められていた。
 音と飛沫をたてて、その中に座り込む。服が汚れるのも下着が濡れるのも構わない。ただそうすれば疲労が抜けていく気がしたし、事実、気分はかなりすっきりとした。
 水中で両足を投げ出す。息が整い、どうやら頭に酸素がいきわたり始めたようだ。俺は冷静に現状を考え始めた。

 …………俺は、魅音とレナを殺した。

 それは事実だ。認めなければならない。
 正当防衛だったが、俺自身がそれを訴えたところで無駄だろう。それを証明してくれるような人間がこの村にいるはずがない。
 唯一期待が出来るとすれば大石さんだ。時計の裏に隠したメモと注射器が彼の手に渡れば、やがてこの村に隠された陰謀が暴かれるかもしれない。





 書いていたのはここまでです。
 そろそろ限界。酔いに理性が抗えない。
 では皆様、おやすみなさいです〜。ぐんない。