「“文学少女”と死にたがりの道化」(著者:野村美月)

 読了。
 あらすじは……人に言えない過去を持つ井上心葉と人に言えない癖を持つ天野遠子は、二人きりの文芸部員。作品を書いては食べる毎日を過ごす二人だが、ある日下級生の竹田千愛が恋愛相談を持ちかけてくる。ラブレターを代筆する破目になる心葉、結果を心待ちにする遠子。だが事態は思わぬ方向へ進んでいく。果たして竹田千愛が恋している「片岡愁二」とは何者なのか?……てな感じ、かも。
 読後感想は、面白かったです。たった一つの趣味を中心に作られている遠子のキャラクターも面白かったし、ストーリー展開も面白かったです。言い方は悪いのですが、各キャラ設定からして「いかにも」な作品だろうと考えていたので、中盤の転を転々としていく様には引き込まれました。ラストが4重になっている点(本当は3重(人間失格含む。太宰を含めると4重)なんですが、主人公が含まれているんじゃ無いかという読み始めの思い込みが終盤まで続いてしまったので感覚的に4重でした)も、構成的に面白いと思いました。
 ただ残念な点が二つあって、一つは屋上で“文学少女”の推理披露シーン。おいおい、単なる大告白大会になってしまってるぞ、と。ここまでミステリーっぽく話を運んできたのに、一気に白けてしまうじゃないか、と。どのように主人公に真実に気付かせるのか、どう究明まで持っていくのか、をあっさり放棄。それまでの構成が単なる雰囲気作りだったのだと思えてしまって、かなりしょぼ〜んでした。
 それともう一つは、後書きから窺えるのですが、この本が当初からシリーズを前提として書かれていること。だから主人公の過去とかは思わせぶりなだけで明かされませんし、琴吹や姫倉といったいかにも人気でそうなキャラクターを、物語の本筋とは関係しないのに配置していたりするのです。それは私にとってはノーサンキューなのですよ。前者に関しては作品を文庫単体で見た場合、完結しきっていなく見えますし、また後者の場合は商売が先に来ていると感じられてしまうことによりテンションが下がることこの上ないのですよ。それよりは「作者がこういうキャラクターを出したかったから」という理由で無理に出された方が私は好きだ。まあ結局妄想が根拠ですけどね。
 でも、うん、面白かったです。この作者のデビュー作をちょっと読んでみたくなりました。