「狼と香辛料Ⅲ」(著者:支倉凍砂)

 読了。いやーよかった、面白かった! 今までの3作の中で一番好きだなぁ。色恋を中心にした話の盛り上げ方や、「対決」の内容と逆転の仕方、マルクやラントのキャラクターの魅力など、この作者さん前2作に比べても上手くなっているように感じます。「策」の成否に障害をいくつも設けて二転三転させたり、物語の序盤や前半で盛んにシリーズ内での「ホロとの思い出」を引き合いに出したりするのが「決別」の危機感を煽っていたりして、あーもうこのヤローっ! 狙いすぎだよコンチクショーっ!!って感じでした。
 今回はホロが正体を表さなかった点が個人的には好き。振り返ってみると嘘を見抜いたり聞き耳を立てたりといった特殊能力を発揮する(それを元に主人公に助言する)こともなかったし、普通に中世してましたね。それでいてヒロインのような人外の存在がいる事を下敷きにした世界観を保っているのは、とても私好み。
 今まで自分が感じていた不満や引っかかりもかなり解消されました。以前の日記に書いた信用に関しては、「町商人」と「行商人」の違いとして説明されるどころか、それを主人公の成長として表されてしまい、考えていた以上の答えを出されてぎゃふん。そうかー、こう上手に孤独やつながりといったテーマに結び付けられちゃったかー、ううむ参った。
 それにつながりを断ち切り続けていると感じていた点も、マルクの口を通して「友人か」と指摘するばかりではなく、それを主人公の変化を表す道具として上手く使われていました。今作を読んで、前作までに自分が感じていた不満の正体がようやく掴めた様にも感じました。そうだよな、主人公の今までの人との接し方は、友人のそれではなく商人のそれでしかない、と感じていたのかもしれん。ま、いまさらになってそう考えるあたり、作者さんに見事に操作されているのでしょうけれど(笑
 あ、それと「後難を恐れないのであれば」って注釈がついたのも、個人的には嬉しかった。やはり今作は前2作に比べて、かなり気を遣った文章が用いられていたような気がします。



 今作でロレンスとホロのつながりの強固さは揺るがないものになったので、次作からは主人公の人間的変化と故郷探しに主題が変化して行くのでしょうか。物語としてはここらで何か大きな一山が来て欲しいところ。それも含めてぐだぐだにならずに奇麗に終わらせるには、6冊〜8冊ぐらいがベストかも。
 いやいや、なんにしても堪能させていただきました。